採用トレンド
2023.3.24
深刻化するホテル・旅館業界の人材不足の現状と解消に効果的な施策について【2023年度版】
ホテル・旅館業界と言えば、新型コロナウィルスの流行以前から「人手不足の業界」と言われている業界です。
近年、コロナ禍により人員の整理や旅行需要の落ち込みなどで大打撃を受けた宿泊業界の人手不足の状況は、今、どうなっているのでしょうか?
ホテル・旅館業界の人手不足の現状は?
旅館やホテルを中心とする宿泊業は、コロナ禍になる以前から深刻な人手不足が問題となっている業界です。そんな中迎えたコロナ禍、業界の状況はどうなっているのか見ていきましょう。
データで見る業界の現状
帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2023年1月)」(※)によると、ホテル・旅館業界の現状は以下の様になっています。
・正社員が不足していると感じている企業の割合は77.8%
・非正規社員が不足していると感じている企業の割合は81.1%
・ホテル・旅館は正社員・非正規社員ともに全職種中トップ(全職種平均は正社員で51,7%)
・非正規の81.1%はコロナ禍以前を含めても過去最高値を更新
ホテル業界で今起こっていること
訪日外国人が増えてきている
2023年1月の訪日外国人の数は水際対策が緩和され、新型コロナウイルス感染拡大前の約6割程度(約150万人)まで回復しています。
また、この3月1日には中国からの渡航者に対する水際対策も緩和されたので、今後さらに回復していくと見られています。
国内旅行客も活発化
日本人国内旅行者の動きも全国旅行支援の再開で賑わいを見せています。
2022年の宿泊旅行統計調査の速報値によると、日本人観光客数は4億3721万人まで回復。
2019年に比べて約9割程度の観光客数となります。
人手不足が深刻化
訪日・国内の旅行客が戻ってきている中、各地の観光現場では特に非正規やアルバイトの人手不足が深刻化。
需要はあるのに宿泊客を受け入れられないことから全国旅行支援に参加しない宿泊施設もあるほどです。
また、アフターコロナの人手不足は、需要が回復してきた今の機会損失だけでなく、5年後10年後に主力スタッフとなる若い層が離職し足りないことで、いずれ人員の空洞化を招く問題も抱えています。
人手不足が起きている6つの原因
新型コロナウィルスにより深刻化しているホテル・旅館業界の人手不足ですが、コロナ禍以前より、「人手不足の業界」と言われていました。
その根本的な原因にはどういったものがあるのでしょうか。
他業界に比べて高い離職率
厚生労働省の調査「令和3年雇用動向調査結果の概況」では、ホテル・旅館業界の離職率は全職種でトップの25.6%に上ります。
厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)を公表します」を確認すると、就職後3年以内の離職率は高校卒で60.6%、大学卒で49.7%となり、どちらも全職種中トップの離職率となっています。
慢性的な低賃金
国税庁の「令和3年分 民間給与実態統計調査」によると、民間企業の平均給与が443 万円であるのに対し、ホテル・旅館業界の平均給与は260万円。
国民平均に比べて183万円も低くなっています。これは、業界が落ち込むコロナ禍以前でも同程度の数値となります。
労働時間が長い
ホテルや旅館は基本的に365日24時間稼働で、従業員の負担が大きくなりがちな業態です。
また、ホスピタリティを追求すればするほど業務量が増えてしまい、時間外労働など労働環境の悪化に繋がります。
休日が少ない
厚生労働省「平成 30 年就労条件総合調査の概況」によると、1企業あたりの平均年間休日日数は全職種の平均が107.9日であるのに対し、宿泊業(飲食サービス業含む)は97.1日と平均から10日以上の差ががあります。これは、全職種でワースト1位、最も休みの取れない業界を表しています。
休日日数や労働時間、年次有給休暇はワーク・ライフ・バランスの実現に関わり、離職率とも密接な関係にあります。
シフトが不規則
24時間稼働のホテルや旅館は、シフト制で勤怠管理をしている施設も多いです。
昼勤や夜勤、早番、遅番などもあるため、どうしても生活リズムが不規則になり心身の疲れが取れない日々が続いてしまいます。
また、繁忙期になると残業時間も増えたり、連休が取りづらくなったり従業員への負担も大きくなってしまいます。
ホテルの開業ラッシュ
近年、東京オリンピックの開催に合わせ、インバウンド対応のホテルが数多く建設されました。
また現在も、円安の影響や外資系ホテルの参入など、国内観光に期待の高まるニュースが観光業界を賑わせています。
しかし、新型コロナウィルスで離職の増えてしまった旅行業界の需要が急激に高まり、人材の取り合いが激化してしまっているという課題を抱えています。
人材の流出を防ぐ具体的な対策は?
新型コロナウィルス感染症の流行で、ホテル・旅館業は規模の大小に関わらず苦境に直面していました。
しかし、行動規制が緩和された現在も、人手不足という最も重要な課題が残っています。
そんな中で旅館・ホテルが取り組むべき、人手不足の具体的な対策を解説します。
労働環境の改善・働き方改革
人手不足の解消には入職率を上げることも大事ですが、なにより離職率を抑え人材の流出を防ぐことが重要です。
そのためには、少しでも従業員の負担を減らせるよう業務内容を見直すことと、待遇自体を見直すことが不可欠。
従業員が気持ち良く働ける環境づくりを行いましょう。
具体的な改善項目
・長時間労働の是正や給与水準の引き上げ
・同一労働同一賃金の適用(雇用形態や学歴関係なく同業務には同賃金を支払うべきという考え)
・シフトの見直し(労働時間の削減など)
・シフトを固定制に(不規則な勤務での身体的負担の軽減、連休の取得を取りやすく)
・年間休日日数や長時間労働の見直し
・生産性向上のための業務のIT化
賃金・報酬の改善
給与や賞与額の見直し、インセンティブの導入など、スタッフのがんばりに対する評価制度を整えることはより良い労働環境づくりにおいてとても重要な項目です。
がんばり続けるモチベーションが維持できる仕組みづくりが離職率の低下に効果的です。
教育の仕組みづくり
ホテル・旅館業のスタッフには「コミュニケーション能力」や「マナーや気配り」をはじめとするホスピタリティが求められます。
顧客満足度の高いサービスを提供するために、プロのスタッフとしてのスキルを磨くことはもちろんですが、スタッフ自身がやりがいを持って働くためにも、マニュアル作成などきちんとした育成の仕組みづくりを行うことが重要です。
DXの導入
業務効率化を図り従業員の負担を減らすため、デジタルツールの導入を行う宿泊施設が増えています。
デジタルツールの導入は、生産性を向上し、本来取り組むべき業務に集中する余裕が生ませるので、顧客満足度と従業員満足度を同時に改善させることができます。
導入が増えているデジタルツールの例
・予約や客室管理
・自動チェックイン
・観光案内のAI化
・問合せ対応へのチャットボットの導入
・清掃ロボット
・在庫管理の自動化
・人感センサー設置(清掃業務など)
・自動車ナンバーと宿泊履歴の自動照合
業務効率化(デジタルツールの導入以外)
ホテル・旅館で従事するスタッフは、メインとなるお客様対応業務以外にも報告書の作成や点検業務など様々な業務があります。
そうした事務作業をひとつひとつ確認し、簡略化や統合など見直しを行うことで生産性を高めることも可能です。
採用力の強化で勝ち抜く戦略が必須
ホテル・旅館業界は、業界全体が人手不足に陥っています。
そのため、企業側は採用力についても対策を行わなければ、人材の取り合いになっている状況下では人を集めることが難しくなります。近年、増えてきている採用施策について解説していきます。
スキマバイトアプリ「タイミー」の活用
タイミーは、掲載費0円で「空いた時間を活用してアルバイトしたい人材」を募集できるアプリです。
ホテル・旅館業界では、大型連休に連動した繁忙期や、一日の中でも朝食や夕食対応など、その時だけ人員を補充したいタイミングが多々あるかと思います。
他にも急遽スタッフの欠員などで補充が必要な時にも、「タイミー」でのスキマバイト募集は効果的です。
また、スポットで利用したアルバイトの中で優秀な人材がいれば、長期雇用に引き抜くことや好待遇でリピートを促すことも可能です。
導入したホテル・旅館業界の例を見ていきましょう。
◆@赤坂 私鉄系ホテル
・募集業務:オールデイダイニングのサービス業務
・時給:1,200円
・現場の感想:「配膳会を利用しなくなった」「募集をかけて数十分後にはマッチング。
おかけで前日に稼働が必要になった時も安心」「リピーターも多く、教育コストも徐々に軽減できている」
◆@名古屋 外資系ホテル
・募集業務:食器洗浄・キッチン清掃 など
・時給:1,100~1,500円
・現場の感想:「過去に稼働経験のある人へ限定募集し、9割以上がリピーターで教育コストのかからない形が実現できている」「現場へ直行してもらうので、案内の手間もかからない」
◆@沖縄 リゾート系ホテル
・募集業務:調理補助
・時給:1,000~1,200円
・現場の感想:「お気に入りワーカーだけに高時給の案内をするなどで、リピーターの確保ができている」
◆@北海道 リゾート系ホテル
・募集業務:レストランサービス、洗い場、ゴルフ場のコース清掃・軽作業など
・時給:1,300円
・現場の感想:「派遣でも配膳会でも集まらなかったのに、それより低い時給でも集まっている」「1日30~40人でも集まる」「タイミーを使い出してから現場に出なくて良くなった」
◆@大阪&東京 私鉄系ホテル
・募集業務:旅行支援事務処理、軽作業、レストランサービス、宴会サービスなど
・時給:1,150円~1,300円
・現場の感想:「18拠点で利用していますが、募集枠に対するマッチング率が平均95%を超えており、ほぼ募集枠が埋まる状況で大変満足しています。
募集公開後、早ければ30分以内に全て埋まる事も。リピーターが多いので徐々に熟練度の高いお仕事を任せているスタッフも多数出てきました」
外国人アルバイトを活用
コンビニなどで外国人スタッフを目にする機会はかなり増えましたが、その流れは宿泊業界にも広がっています。
厚生労働省が調査した外国人スタッフの雇用状況を表したデータ(※)では全事業所数285,080か所の内、宿泊業、飲食サービス業(40,692か所 14.3%)は、卸売業、小売業(52,726か所 18.5%)、製造業(33,608か所 11.8%)に次いで採用実績の多い業界であることがわかりました。
また、外国人労働者側からすれば、それだけ人気の業界であるとも言えます。
※詳細は下記リンク『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和3年10月末現在)』からご覧ください。
外国人スタッフを採用すると様々なメリットがあります。
多くの宿泊施設で活躍している外国人スタッフですが、採用することで様々な相乗効果を生み出し、運営をサポートしてくれます。
◆即戦力になる
他国で仕事や勉強のために頑張っていることから勤勉な人柄が伝わりますが、特に留学生はアルバイトが生活の支えとなるため一生懸命に働いてくれる人材が多くいることが特徴です。
◆訪日外国人の対応が可能に
日本語や母国語など、多言語対応が可能になります。また、多言語対応のメニュー作成や訪日外国人目線でのアイデアをもらうなど、外国人ならではの効果が期待できます。
◆友人などを連れて来てくれる
外国人の方がアルバイト先を探す場合、日本人が探す時よりも選択肢の幅がぐっと狭まります。
そのため、日本語学校の友人などに紹介するケースが多くなります。
◆正社員としての採用も期待できる
就労ビザなど、一定の条件さえ満たせばアルバイトから正社員としての雇用も期待できます。
企業側がビザについての知識がない場合には、サービス会社に相談することで解決できます。
◆日本人スタッフへの刺激になる
外国人スタッフは日本という慣れない環境でもひたむきに働きます。その姿勢や、違った文化や考え方が日本人スタッフに良い影響を与えることが期待できます。
【外国人採用の際に注意すべきこと】
外国人のアルバイト採用に取り組むと人手不足を軽減することができますが、雇用側が知らないと様々なトラブルに発展することがあります。
雇用する側が知っておくべき法律や手続き、習慣などを整理しておきましょう。特に、留学生を採用する場合は注意が必要です。
<法律や手続きについて>
◆労働時間は原則週28時間以内
学業を目的として日本に滞在する外国人留学生には労働時間に制限があります。
アルバイト先が一ヵ所の場合も、掛け持ちの場合も、全てのアルバイトを合わせて週28時間以内とする決まりがあります。
ただし、在籍する教育機関が学則で定める長期休業期間であれば、週28時間を超えても1日8時間以内であれば働くことができます。
◆資格外活動許可が必要
留学生をアルバイトとして採用する際、適法に在留していることを示す「在留カード」と留学生のアルバイトを認める「資格外活動許可」の確認をします。もし、資格外活動許可がまだの場合は、契約時までに取得してもらう必要があります。
留学生の在留期間の確認もしておきましょう。
在留期間が過ぎると「不法滞在」となりアルバイトができなくなりますので、企業側も在留期限は定期的に確認し、期限が迫っていれば更新手続きを行うよう促しましょう。
◆労働契約書の締結とハローワークへの届け出が必要
留学生を雇用する際も日本人雇用と同様に労働契約書の締結が必要になります。
また、ハローワークへの届け出も、採用時・離職時ともに必要です。
<スキルや文化、風習について>
◆日本語能力試験(JLPT)をチェック
担当してもらう業務に応じて、日本語能力のレベルを確認しましょう。
日本語能力試験は難易度順にN1からN5までランクがあり、N2以上であれば日常会話に支障がないレベルと判断されます。
資格がない場合でも、留学生は勉強意欲が高く習得スピードが速いことが多いので、業務内容や社内にコミュニケーションを取れる人材がいるかなど、採用側の社内環境と照らし合わせて合否の判断をするとよいでしょう。
◆雇用契約や作業マニュアルなどはわかりやすく
雇用契約など複雑な内容ほど、理解が難しかったり内容を誤解してしまうリスクがあります。
母国語でのマニュアル作成や、バイリンガルの通訳など、丁寧にコミュニケーションをとって理解のサポートが必要です。知らずに法律違反を犯してしまうケースもあるので慎重に行うことが大切です。
◆仕事内容や労働条件のミスマッチに注意
外国人留学生はアルバイトがはじめてという人も少なくありません。
時給や残業手当、交通費支給、休憩の取り方、シフト申請など、十分な説明を心掛け、長期で活躍してもらえるように対策しましょう。
◆研修方法の見直しや定期的なフォローを
外国人人材の受け入れは、採用者のバックグラウンドや配慮すべき点など、十分な理解が必要です。現場の社員やアルバイト含め、会社全体での共通認識を築くことが重要です。日本人でも入社したばかりだと緊張や不安があります。業務のサポートはもちろん、メンタルのケアにも気を配りましょう。
『定着強化』と『新規採用』をバランスよく行い、人材不足を解消しましょう!
長年、人材不足の業界と言われてきたホテル・旅館業界ですが、デジタルツールの発展や新しい働き方が浸透してきたことで流れが変わりつつあります。
この数年間、コロナ禍で我慢を強いられてきた旅館・ホテル業界にも業績の回復の期待感が高まっている中、しっかりとチャンスを逃すことの無いよう、また、人材育成という意味では将来への投資ができるように確実に取り組めることから取り組んでいきましょう。
株式会社ノーザンライツではホテル・旅館業界をはじめ、様々な業種のお客様への採用支援&改善提案活動を続けております。
些細なお悩み事をご相談いただく機会も多くありますので、是非採用ご担当者様からのお声がけを頂けますと嬉しく思います。